クライエントさんはもう1人の私。
精神科のクリニックの勤務時代はカウンセリングを週40セッション、今まで1万以上のセッションを行ってきました。その中でクライエントさんの症状は気分障害（うつ病、双極性障害）が最も多く、統合失調症、不安障害、摂食障害、パーソナリティ障害、身体表現性障害、発達障害等多岐に渡り、年代は10～80代まで、出身地も外国籍を含め様々でした。常に意識してきた事は、たとえ今、クライエントさんがどんな状態であっても、それを超える本来の力やパワフルさが本人の中に内包されていて、私がそれを信じて見続けることで、力が引き出されてくるということ。力の引き出し方は、従来の心理療法から、そのクライエントさんに合わせて、あの手この手であらゆることをやってきました。同じ症状でも、このクライエントさんには効果があり、このクライエントさんには全く効かないというように、何が効くかは本当に千差万別で、オーダーメイドで一緒に治療過程を作っていく必要があるのです。

別の側面ではクライエントさんはもう1人の私で、彼らを私の1側面として私も日々自身を改善していくことで、クライエントさんに何らかの良い影響を与えられるということ。宿題を出す時は、できるだけ私も同じ宿題をやるようにしてきました。
クリニックを辞めた2023年は、今まで担当したクライエントさんの症状を身をもって体験することになり、丸太のように転がって日々を過ごすこともありました。そして、本当に相手を理解することに対して、まだまだ余地があることを実感しました。

心理臨床のカウンセリングでは、様々な心理療法がありますが、どの療法を用いるかは治療効果にあまり差はなく、そのカウンセラーがどのような人物かが結果に大きく影響するという研究が定説となっています。カウンセラーが成長することをやめた時、クライエントさんの改善率も如実に下がるという、つまりカウンセラーの人格や本質が問われる、とてもシビアな世界でもあるのです。しかし、抑うつ状態を経験し、自分をコントロールすることができず、人生を好転させることに問題を抱えていた私が自分を助けるために始めた精神の探求ですので、自分が日々改善していくことで、クライエントさんと共に改善、成長できるという状態は願ったり叶ったりです。

今大切にしている事は、一瞬一瞬を大切にし、目の前のクライエントさんと全力で向き合うこと。そして、そのクライエントさん、独自の強みやユニークさ、特性を見つけて、それに合った改善方法を提供すること。日々の生活でも考えること、話すこと、行動をできる限り一致させ、嘘をつかず、本当に感じていることを伝え、自己一致（純粋性）を保つこと。

けれど実際のカウンセリングの場は、真剣ですが、深刻ではありません。多くの時間をクライエントさんとユーモアを交えて笑いながら過ごしています。そうやって、軽く明るく、シンプルで簡単な心持ちになると、今まで動かなかったものも、するっと、動くようになってきます。また命が関わっているような時は、最も本質的な話ができる非常に価値ある時間ともいえます。そうやって真面目に楽しく、最も命が輝く濃厚な時間を共に過ごせることを大変光栄に思っています。